思い出すこと

                                                     岩手高等学校
                                                      吉 田 文 明

 人間の記憶はかなり曖味なもので長い年月を経て昔の事を思い出そうとするとどうもはっきりしない。
しかし、それぞれの時代の中には、やはり忘れられない事の1つや2つはあるもので、それが今でも赤面するようなことであったり、密かに自分だけ悦に入るようなことであったりする。
 昭和58年、池口杜孝先生からハンドボール部顧問を引き継ぎ17年、素人の無知故に周囲の迷惑も顧みず、今思い返しても「汗顔の至り」というような事が少なくない。
ただそんな自分に救いの手を差しのべてくれたのは、上手くしたもので部員達のハンドボールに対する情熱であった。
 平成2年11月、花巻農業高校体育館において新人戦。相手は盛岡一高を下し勢いのある不来方高校。
下馬評では不釆方高校有利が圧倒的、番狂わせはおそらく無いものと考えられていた。
 ところが、高校生、しかも団体戦においては何が起きるかわからない。その時の岩手高校には正に、天運、地道、人運全てが舞い降りていた。
ゴールキーパー小笠原が相手校佐藤のロングシュートを尽く止め、一方では普段プレッシャーに弱かった笹森が大事な所で点数をもぎ取る。結果、本校初の新人戦ベスト4という快挙をなしとげることができた。
 遡ること2年、本校に内記康晴という生徒が入学してきた。彼は中学時代から注目されていた選手であり、当時やや低迷していた本校のハンドボール部に入ってくれたのは全くの僥幸であった。
当然入学した4月の大会から正選手として試合に出場し、2年生からは主将としてチームをまとめ目標にむかって常に努力していた。
 残念ながら彼の在籍中にその努力が報われることはなかったが、彼が残してくれた「情熱」「リーダーシップ」その他多くのものが後輩の白岩正充達に受け継がれ、平成2年の新人戦ベスト4という結果に結びついたものと私は信じている。
 競えば必ず勝ち負けという結果が残る。勝負にこだわるも良し。また、スポーツを楽しむ、それにこだわるも良し。いずれにせよ、高校3年間、仲間と共に過ごす日々が輝きあるものであることを願いたい。

                                           岩手県ハンドボール史
                                            創立50周年記念誌より引用